戦犯なんていいかげん

TAD-O-TAD2008-02-08

「731 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く」(青木冨貴子、新潮文庫
第二次世界大戦中の「関東軍七三一部隊」についてのノンフィクションで有名なのは、森村誠一氏の「悪魔の飽食」(現在では「新版」として角川文庫)である。「悪魔の飽食」が「戦争の悲惨さを後世に伝える」という大義名分のもとに、かなり「グロい」面まで克明に記されているのに対し、青木氏のにはそれがない。代わって記されているのは、石井四郎軍医中将(軍医は中将が最高位)がいかにして狂気に走ったか、また戦後彼が率いる七三一部隊の幹部ら(もちろん本人を含む)がいかにして戦犯を免れようとしていたか、そして七三一部隊が非道な人体実験をして得られたデータを米文官、米軍人(マッカーサー)、ソ連が取り合う様、などである。膨大なインタビューや資料の発掘(まあ、一番重要な石井の二冊のノートは提供されたものだが)の末に書かれた本書は、もともとノンフィクションが好きな私にとって読み応え十分であった。


悪魔の飽食」を読んで、真っ先に思うのは「平凡な人間を狂気に追い込む戦争の魔力」である(現在再読中)。対して本書を読んで感じるのは「虚虚実実のやりとりで、なんとか自分の都合のいいようにもっていこうとする人間の欲」であった。まあそれは当たり前といえば当たり前のことだが、舞台設定があまりにも重いために、やっぱり圧倒されるのだ。


それにしても、あれだけ酷いことをやった人達が「酷いことをやったおかげで」戦犯から免れるというのは、これも戦争のの一側面なのであろうか。